英雄ばっくれる















 今からおれがすることを、おれは何一つ正当化するつもりはない。君とおれが同罪だということを、おれ自身がよく知っている。むしろおれの方が君より罪は深いだろうね。あの場所にいたころ、おれは震えるばかりの役立たずであったのだから。




 毎日、毎日、せっかく解放されたというのに、頭の中が戦場のままだね。時間が止まっている。あの子たちと遊んでいるさなかにも、いつの間にか心の中で祈り続けている。爆弾、飛んでこないで下さい。おれを避けてどこかに消えて下さい。殺さないで下さいおれを見つけないで下さい誰も来ないで下さい、おれに誰も殺させないで下さい。気がついたら戦場にいるつもりになっている。ふとしたきっかけで時間が巻きもどって、目を覚ますと罪もない子供がおれに殺されて死んでいる。







 そりゃ、できるものならなんとかしたかったよ。実際しようと思ったさ。色んなこと試したし、医者にもかかった。治療に励んだ。でも駄目だった。結果は同じ。いや、悪化したと言ってもいい。それなりの時間をかけて得たものと言えば、おれたちに救いの手とやらは伸びてこないって分かったこと。それだけだ。そんなこと最初に気付くべきだったね。所詮戦場で粉々に砕かれた精神は何をしようが元には戻らない。










 おれはもう、疲れちゃったもんだから、今日は君に道連れになってもらうよ。
 それを知れば恐らく君は、激怒して暴れ狂っておれを殺害するために幻として現れるだろけど、実はもう無駄なんだ。語り始めたころにはもう準備は済んでいる。あとはただ石ころにそうするようにこれを蹴り飛ばすだけでいい。まあそう怒鳴るな。今日のところは諦めておれに付き合ってくれよ、戦友。例え君とおれがここで終わってしまっても、何事もなかったように明日は訪れる。わかるだろ。ここはそういう村だ。







 すべてを放り投げて逃げ出すなんてどうせできないと言うのなら、せめてこの素晴らしく最悪な今日くらいからは逃げさせてくれたって、いいと思わないか?















( 踏み台を蹴飛ばした瞬間、それまで落ち着いて笑みすら浮かべていた男の表情は、一瞬で驚愕にそまる。そうしてつかの間の逃亡を図った軍人は、かつてどこかの英雄だった )







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まず医者をなんとかしなきゃあ……。(※ダブアミ)