すべて終わった後に、芭蕉が泣き出した。仰向いたまま両腕で顔を押さえつけて、うめきながら泣き始めた。曽良は肩で呼吸しながら、涙を流す師匠を見下ろしている。そんなに嫌だったかと失望すると同時に泣き声にどうしても嗜虐心をそそられる。犯したのにまた犯したくなる。
 腕や身体に残る無数の接吻や殴打の痕跡を指でなぞると芭蕉が顕著に反応した。この手が怖いか。反応が面白かったので芭蕉の腕を退かしその瞳を覗き込む。涙がたまったそれがおずおずとこちらを見遣る。少し震えているようだった。構わず一方的な接吻を交わす。


( 可哀相ですね )
 僅かにだがこの男が哀れに思う。今もこうして自分に組み敷かれて悲鳴をあげるしかできないこの人のことは心底可哀相だと。
( 僕に愛されて )


 暴力じみたやり方で、もう一度芭蕉を抱く。芭蕉が痛いと泣きじゃくるたび痺れるような快感を覚える。この人がつらそうに息をするのが嬉しい。ほとんど風の吹きぬける音のような声が面白い。気分が高揚してゆく。それなのにいつも曽良のどちらかの手がいつも芭蕉の心音を確かめるかのように置かれていて頭が冷える。この人を殺してしまわぬよう、加減している自分に気づくのだ。これのせいでいつまでものぼりつめてゆけない。


( 本当に可哀相な人ですね貴方はこんな僕に愛されて。いい年してこんな風に犯されて殴られて詰られて惨めったらしく泣いたりなんかして )


「 本当に哀れですね、芭蕉さん 」
 こうしてどちらかの手で、途切れることのない心音に甘える。
「 ……芭蕉さん? 」
 例え返答が返ってこなくても、生きているならば、と。










 いつの間にやら芭蕉は気を失い、目をうつろに開いたまま泣きすらもしなかった。ただ止まった涙の痕が乾きかけて頬をべとつかせていた。( もしかしたらそれは涙のせいではなかったかも知れない )
 揺さぶっても叩いても反応しない。今、何を言ったとしても、その耳には届かない気がする。ならば言ってしまっても構いやしないだろうと曽良がささやく。「 愛して、ますよ 」












断末魔はもう聞こえない









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