・直接的なものではありませんが、「監禁ネタ」っぽいものが含まれます。
・小野妹子がかわいそう。
・こんな摂政は冠位59位に格下げだ!



















 がっしゃあん! ってすごい音がしたのに、カレーを皿ごと落として床にぶちまけたのに気づいたのは、調子丸がホウキとチリトリで床掃除をし始めた時だった。大好きなカレーに破片や汚いものがまざりあってもう食べれなくなっていくのを眺める。きっと美味しかったんだろうなあ、妹子にも食べさせてやりたかったな。じわ、と痛みとともに涙がたまって世界が揺れる。私が泣いているのに気づいた調子丸が、泣かないで下さい、ファイト、どす恋ですよ。と調子悪い励ましをくれた。

「太子、今日ちょっと変じゃないですか?」
 それでも泣きじゃくり続ける私に調子丸が遠慮がちに尋ねた。案の定、泣きすぎて何も言えない。しゃくりあげていたら呼吸すらうまくできなくなってしまいには咳が出て、喉が痛い。私はカレーが犠牲になったことで泣いているんじゃなかった。もちろんそれも悲しい。だって楽しみにしてたし。でもそうじゃなくて、それじゃなくて。私、思い出しちゃった。思い出しちゃったんだよ。

「どうしたんです? オレでよかったら聞きますけど……」
「え、えっ……」
「え?」
「餌、やるの、忘れてた……」

 なんて可哀相なことをしちゃったんだろうと、自分の過ちに泣く。そんなに経っていないはずだけど、死んじゃってたら、死んじゃってたらどうしよう。どうりで最近元気がないと思った。名前を呼んでも返事してくれないし。
「もしかして太子、また内緒で犬拾ったんですか……!?」
 調子丸が急にあせって、声を殺して叫んだ。もし私が犬をこっそり飼っていて、それがバレたら馬子さんに怒られるからだ。怒った馬子さんは怖い。それで、馬子チョップは痛い。
 犬、か。
 あいつが聞いたらそりゃあもう、怒り狂うだろうけれど、首輪につなげて小屋に住ませてるし犬って言っても別に構わないかも知れないな。「うん、実はそうなんだよ。ちょっと、ワンちゃんにしては大きいんだけど。私には全然、懐かなくて……」嘘でくるくるまわる舌に、そう言い訳をする。

「ダメじゃないですか。蘇我馬子様に知られたら、太子またお尻叩き百連発ですよ」
「うん、あの時はお尻腫れて痛かった……。なあ調子丸、ワンちゃんってカレー食べられるかなあ?」
「え? あー、うーん。オレ犬飼ったことないんでよく分かんないですけど、食べられるんじゃないですか?」

 調子丸がそう言うので、よし、と気を取り直して新しいカレーをよそいに行く。涙はもう止まっている。駆け足だった歩調を途中でスキップに変えながら、鼻歌交じりに“小屋”に向かって走る。元気にしているかな。餌を忘れちゃうなんてひどいことしたな。怒ってないといい、それ以上に死んでないといいけど。何日くらい忘れていたっけ? 一週間? まああいつなら大丈夫だろう。なぜなら芋の化身だし。でもやっぱり怒るだろうな、あいつ、すぐ怒るから。いっぱい謝るつもりだけど、もしかしたら許してくれないかもしれない。すぐ怒る上にケチだし。だけどそれでも、それでも許してくれたら。たくさんたくさん可愛がってやろう。それで、それから、私と一緒に遊んでほしい。もう私はそれだけでいい。


 それだけでいい。






それだけが叶えばいいと願う だけ










title by 選択式御題
調子丸が調子悪い。どう書けばいいのだろう……。小野妹子ただいま絶賛失踪中。
監禁は大変美味しく頂けます。でもどちらかと言えば、監禁よりも軟禁の方が好ましかったりします。
そうそう、ワンちゃんにカレーはいただけません。タマネギはもちろん、刺激物もよくないんですって!









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