糸電話をしようと突然言いだした。訊けば太子は朝から準備していたらしくて、糸で通した紙コップを二つ、ジャージの懐から引っ張り出してきた。 「……確か太子、そのジャージ素肌に着てませんでした?」 「うん、そうだよ? 猛烈にチクチクする、もうチク!」 「その紙コップ触りたくないんですけど」 「何でだよ! そういうこと言っちゃ嫌! 摂政としての命令だ、ホレ受け取れ」 「うええ……」 わずかにカレー臭の残る紙コップを受け取りながら、妹子は後で手を洗うことばかりを考えた。長い糸がはりつめるまで遠くへと歩き始めた太子の足取りが浮かれていたので、諦めたようにコップに耳を押し当てる。ピン、と糸がはる感触が伝わっても、声は聞こえていなかった。気配すらも感じられず、ただ静まり返るばかりで、怪訝になって太子の方を見やると太子もコップを耳に押し当てていた。 「言い出した方がなんで何も喋らないんですか……」 「お、お、聞こえた! 聞こえたぞ妹子! ウヒャー糸電話ってスバラシイ!」 妹子が呆れてコップに向かいそう告げると、太子は話の内容よりも届いた声に感動して、糸越しに振動が伝わるくらい飛び上がって喜んだ。遠くから太子が「じゃあ次私! 私喋るぞ!」と気合を入れていたので、はいはいとおざなりな返事をして、紙コップを耳にあてる。 「えっと……、えっと……」 いつもは偉そうなくせにこういう時は妙に緊張する。本番に弱いようだ。 「何でもいいからさっさと喋って下さいよ。僕ちゃんと聞いてますから」 「えっと、うん、分かった! ちゃんと聞いてろよ!」 紙コップから口を離し、太子がどなる。 「いいからさっさとして下さい。帰りますよ!」 「嫌ッ、帰らんといてー! 聞いててー!」 遠くの太子が半泣きになったので、ため息を吐きながらも、もう一度紙コップを耳にあてがった。 「……あい、らぶ、……ゆー」 その声を聞いた瞬間、思わず手から紙コップが滑り落ちた。 「聞こえた? 聞こえた?」 聞こえた、聞こえた。と返すこともできずに、固まった手を意地で動かして、紙コップを拾う。そしてそれを太子に向かって投げた。丁度額あたりに直撃してペコンと音が鳴った。 「あいた! なんだよ何が気に入らないんだよ」 「うるさい黙れ」 「ウギャアアアアアまさかのチョークスリーパーこっちの方がきくううううう!! ウ、ウォンチューの方がよかった?」 「うるさいうるさいうるさいうるさい、うるさい!!」 「ギャー助けてー!」 いとづたえ。 キャラブックの表紙の二人はかわいいと思います。ネタが被ったって、かまわない!(←) 緊張している太子を愛でるのはいいけど、あいらびゅーってもっと他になかったんか私。タイトルは造語です。 ××× |