戦いだった、と結果を目の前にして思う。あれは戦いだった。



 ずっと、好きにならないようにと願っていたから、僕はあなたを好きではありませんでした。まったくもって、好きじゃなかった。好きじゃなかったから私のこと好きかい、と尋ね続ける言葉にだってこう答えることにためらいはなかった。好きじゃないです。好きじゃないですよ。あなたのことなんか僅かほども好きじゃないですよ。と、告げるたびに少しだけあの人の笑顔が歪むのにも、気付かないふりをしていられた。

 今にして思う。
 あれは戦いだった。

(ああして追ってくる何かから逃げ続けていた)(怖かった、のだ。今だから言えるけど)(あれは本当に『恐怖』だったのか、未だ分からない、けれど)(逃げていたことだけは間違いはなかった)


 好きかと訊かれる。前触れもなく、不定期に。いつものように、好きじゃないですよと答える。そのたび泣きそうな笑顔に気付いた自分にお願いだから気付かないでくれと祈る。
 会話はいつもそこで終わってしまうから、自然と別れ際に尋ねるようになった。

 私のこと好きかい。好きじゃないです。慣れた言葉を舌が勝手に口にする。もうこのときあの人の顔を見て表情をうかがうのも疲れていた。だからその時、僕は顔を上げなかった。
 いつもだったならば、そこで終わるはずだったがこの日は少しだけ続いたじゃあ妹子は、私の事が嫌い、かい?
 それは、もっともして欲しくない問いかけだった。
(だってその答えはまだ用意していない)全身からじわり、と侵食されていくように、真っ暗になっていく。音も光も失われていく。冷汗が顎を伝って滑り落ちて、その音が耳にまで届いた気がする。言葉を紡げない脳と喉を心の奥底から憎んだ。

 この人のことは、ずっと好きにならないようにと思っていた。思っていたのだ。だからこの人のことは好きにならない。好きなんかじゃない。好きじゃないままならいま目の前にいる人の視線から逃れられるとずっと信じてきた。
(僕はそれほどまでに甘かったのだ。否定し続けていればこの人が目をそらし続けてくれると思い込んでいたから)
 答えられないのをからからの喉のせいにしたい、僕は卑怯者だった。僕は太子を好きにならないようにして、ならなければまだ救われると思っていた。
(愚かだったんですよ太子。僕は間違えたんです)(こんなことなら好きになっておけばよかった)(気の置けない親友くらいならなってもよかったかも知れない)(だってこんなの好きになるより絶望的じゃないか)(言えるものか)

(愛してる、なんて)



 結局嫌いか、と言う問いには答えられなかったが、太子はそれを責めはしなくて代わりに質問を重ねてきた。こちらに手をのばして、僕の涙の意味を訊いた。







いつの間にかあんたの優しさに縋ることを 



覚えてしまいました












title by 選択式御題


 妹太のつもりだったけど太妹でもいいや! もうどっちでもいいや!
 色々迷走感溢れていて、反省点が多いです。あっちこっち破綻しているけど、勢いで押し通します!


 太子は妹子に恋しちゃってるけど、妹子は太子を愛しちゃってたらいい、と思います。









×××