一週間前、小野妹子は聖徳太子の掘った穴に落ちた。

「ごめん妹子……。怪我するとは……」
「年の数だけ竹ヤリしこんどいて怪我しないと思ってたんですか。この馬鹿!」
「いや、でもツナあったし……」
「ツナでどうにかなる訳ないでしょう! 太子のせいで僕なんだかツナが嫌いになりそうですよ」
「お前、ツナに罪はないぞ!」
「そうだよ悪いのはあんただよ!!」

 一応避けようと頑張ってみたのだが、お誕生日ケーキのロウソクのように張り巡らされた竹ヤリを避けきるのは不可能だった。脇腹、足、肩に突き刺さり、今の妹子は割と満身創痍だ。これでも仕事が休めないなんて朝廷は鬼かと思う。
 さすがに責任感を感じたらしき太子は、妹子に休みをもらえるように頼みに行ったらしいが、タイミングが悪いことに馬鹿な理由で有給を取った直後でそれは叶わなかった。
(本当に下らない理由で一週間も休み取らなきゃよかった)

「もういいですよ太子。大分怪我は良くなってきましたし……。怪我のことはさておき、有給の件は僕の自業自得なんだから」
「ごめん妹子……。私もなんとか頑張ったんだが、馬子さん強かった」
「交渉の仕方にも問題あったんじゃないですか?」


 正直現在進行形で痛いし、本気で死ぬかと思ったがここまで謝られて許さないわけにもいかない気がした。しかし口には死んでも出せない。この人すぐ調子乗るから。
 どうしたものかと妹子が思考を巡らせていると、太子が思い出したようにぽんと手のひらを叩く。

「そういえば、まったく休みもらえなかった訳じゃないぞ。二週間後に一日もらえるってよ。よかったな妹子!」
「二週間後に、一日……ですか」(本当に鬼だな。そろそろ死ぬぞ僕)
「そんなわけで、妹子のお休みの日には私も一日付き合おうと思う」
 両手の親指を誇らしげに立てる聖徳太子。(ノーパン)
「ふざけんな! 大事な休みを邪魔しないで下さいよ」
「いいじゃん別に〜。お詫びにいっこだけ妹子のお願い聞いてあげるから」
「いっこだけかよ!(許すのやめようかな) ……あ」
 ひらめいた。

「いいですね。じゃ、休みの一日付き合ってくれますか?」
「え、なに急に……」突然手のひらを返した妹子に言いだしっぺが戸惑った。「い、妹子がいいなら別にいいよ……?」
 勢いを失い消極的になって、指先をいじりながらこちらをうかがっている。
「じゃ、二週間後僕の家の庭で待ち合わせましょう」
「えー……。私は摂政だぞ。妹子来いよ」
「僕のこの怪我は誰のせいでしょうね。見せましょうか?」
「ごめん……」

 ちょっと卑怯な手を使ってしまったが、約束を取り付けることはできた。そのままぼさっとしているとこの男のことだから、はいこれでいっこ終わり! とでも言いかねないため、妹子は早々太子の元を立ち去った。


 そして二週間後。





 予想はしていたが太子は約束の時間を大幅に遅刻していた。
「くそ遅いな太子……。何やってんだろ。道にあるブランコたるブランコに乗り歩いてるのかな。あーもー痛たたたたた……」
 待っている間ものすごく痛かった。脇腹が、足が、肩が痛かった。立っているだけでやっとなくらい、痛かった。思考力もずいぶん低下した。痛みにイライラしていたら、大遅刻の太子が反省の色全くない笑顔でスキップしながらようやく姿を現した。ムカつく。

「遅いですよ太子」
「ごめーん妹子! ちょっと道にあるシーソーたるシーソーを制覇しようと思ったら遅れちゃってーーーーー!」
 低下した思考力で考えた予想が半分以上当たってた。
「……。まあいいです。じゃあそのまままっすぐ走ってきて下さい」
「よしきた見よ! 華麗なる聖徳ラン!」
「そうそうそのまま、まっすぐ! まっすぐですよ太子!」
「どうだ見事だろ! 美しいだろ! さすが聖徳太子ってかん」

 太子は消えた。
 地の底へ。




「妹子、なんか落っこったんだけど……」
 妹子が穴を覗き込むと、尻もちをついた太子がものすごい勢いでヘコんでいた。
「よっしゃ。……スッとした」
「スッとしたってナニ!? よっしゃってナニさ!? しかしてこれお前が掘ったの!? すっごい深いよ私思いっきり腰打ったよ!? どういうことねえ妹子!!」
「仕事から帰った時とかに掘ってたんで二週間きっちりかかりましたよ。これでおあいこってことで、怪我のことは全部チャラにします」
「うん、ありがとう……。それで私はどうなるんだ?」
「この際だから二時間くらいそこで反省してて下さい。それが僕のお願いです。一応後で助けに戻ってきますから」
「ヒッデエーーーーーー!!!」


 すっかり気がすんだので妹子は踵を返して自宅へと戻った。後ろから怒号というか奇声というか、色々聞こえてくるけどもう気にしない。せっかくの休みだし、お茶でも入れてゆっくりすることにする。
「…………痛」
 スッキリはしたのだが、二週間の間穴を掘っていたおかげで傷口が開きまくったことだけは後悔していた。









小野二週間。







タイトルでオチがバレそうな話。






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