愛しき人を腕に抱いたまま












「 お前の声がな、好きなんだよ 」




 彼が携えたナイフが光るから、僕は目がちかちかしていた。軍人さんの両目のくすんだ金色には、強い狂気が押し込められている。僕が腰をぬかして立てなくなっているのを知りながら、口角をつり上げ、にやつきながらこちらへ歩いてくる。


「 お前の悲鳴はどんなに遠くてもよく聞こえる。お前は怖がりだな。ちょっとしたことですぐに叫んで。な、フレイキー 」




 髪をわしづかみにされて、ほっぺたに冷たさを感じた時、殺されるというよりも、恐怖でショック死でもしてしまいそうな予感がした。口からは悲鳴とか何も出てこなくて、ただ息が止めた。目の前で薄く笑っている軍人さんに、僕は死んでいますと示すように。それが僕にできる最後の命乞いだった。




 いつもの彼だったら、もうこのまま僕の首をかっ切っている。ナイフがなくても、この人は首を絞めて、へし折ることだってできる。けど、この時の軍人さんはいつまでもそうしなかった。いつの間にか皮膚を薄く切ったナイフをおろして、歪んだ笑顔のままずっと僕を見つめている。
「 お前の悲鳴が、 」
 僕の頬を撫でる手は、針金のようなこの髪のせいで傷ついてしまった。
「 一番、そそるんだ 」






 ぼろぼろの指先が僕の喉をなぞった時、なぜか呼吸がすうっと、楽になった気がした。だけど身体がかたかたと揺れてどうにも止まりそうにない。身体が心と、いっしょじゃない。
 知らないうちに僕は軍人さんの腕の中にいる。背中の方から、じりり、という音が聞こえた。血の滴る音と、焦げた臭いが後につづく。抱いて離れない腕に、僕はとまどいながら、この人を怖がることが、かわいそうなことに思えてきて、


「 僕も、すきです 」


 この人が囁いた言葉を、告白と錯覚しはじめる。この人の顔を見なければ、ぎらついた眼で睨まれなければ、思い出すのは声だけだから、好きだって素直に思えた。怖くないって、言ってもよかった。




 軍人さんが腕を僕の背中に回したままはなれていく。
 笑顔が剥がれおちていて、ぞっとした。




「 嘘つけ 」





 彼はもう一度笑顔を作りなおした。僕の背中でダイナマイトの導火線が、そろそろ燃え尽きようとしている。軍人さんは僕を片手で抱きながら、額に軽く口づける。




















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(愛しき人を腕に抱いたまま )



久々のフリフレでした。
フリフレはスキンシップ多めにしたいなーと思っています。覚醒軍人さんのつもりだったのですが、案外狂わなかったせいで表の方のあんまり変わらない気がしてごがががってなりましたけど、まあいいやとしてしまいました。ごめんなさい。


フレイキーの声っていいですよね……。かわいい。






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