血が冷えて、抱くとかたい。夜が更けると、赤いものは分からなくなる。彼の目を隠す私の手は、そろそろ役目を終えてもいいころだろうか。 片方空いた手で、草原のような髪をなぜてみても指が通らなかった。私は喉だけで、小さな声で何度も、呼び掛ける。フリッピー君。フリッピー君。フリッピー君。私に瞼を塞がれた彼は今でも暗闇の中なので、呼び続けなければ帰ってこられないだろうと思ったからだ。


 私のてのひらにとがる爪が突き刺さって、そのまま皮膚の表面を削っていった。目でもえぐる気かいと思いつつ、私は特に何もせず傍観していた。ひとしきり私のてのひらをかきむしると、いじめっこは泣きはじめた。一度だけ小さな泣き声をあげて。
「 泣きたいのは私なんだが 」
 こんな傷など数分で完治させてみせるが、別に痛覚がないわけではないのだ。痛くて仕方ない。ひたり、と血が落ちる。軍服にしみて混ざってやがては消えてなくなる。








 泣き声は実に静かで、息だけをはくように、涙が無造作に落ちていく。たとえここが本当に戦場だったとしてもひびきわたることはないだろう。


「 その泣きかたは、戦場で覚えたのかい? 」


 彼は私の言葉にふりかえり、死んだ目で私を見上げる。片方だけ、たまった涙がこぼれた。私がしばしその表情にみとれていると、私の喉元にひやりとした冷たさがふれた。反射する光の気配で、私はナイフをつきつけられていると悟ったが、同時に彼に戦意はないことも知っていた。彼は見るからに疲れきって、私に手を伸ばすのすら、疲れるとその目が言っていた。腕を下ろし、彼は立ちあがって、思ったよりしっかりとした足取りで、血濡れた道を歩き出した。一歩、二歩、三歩、落ちていた誰かの腕をすり抜けて、背中を私にむけたまま、
「 殺しておけばよかったよ 」
 と。その声は少し笑っている。


「 君も、死んでいてほしかった。おれがおれを失っている間に、殺しておきたかったよ 」


 即座に私は、彼のような男にやられるような私じゃないと思ったが、あえて言わずにおく。全身を染めた男が、ゆったりとこちらに身体をむける。フリッピー君は眉尻を下げて、困ってしまったように笑っていた。あの子たちを助けに飛び立ったが、間に合わなかった私にむかって。
「 君がそこにいると思い知らされるんだよ。おれは敵じゃなくて、大好きなあの子たちを殺してしまった…… 」
 自嘲をはらんだその顔に、私は強く引きつけられた。だけど私は彼のもとへ抱きしめにいくこともできなかった。あたりに散らばっている死体に黙祷を捧ぐ。彼の手によって、葬られたあの子たち……。君の罪がふかすぎて、私は君を愛しにゆけない。

























オフ会に参加させて頂きありがとうございました! アップが遅くなって申しわけありません;
恐れ多くもオフ会にてがるりさんから「英雄軍人」をリクして頂き、携帯でカチカチとうちこんでいたのですがライフがまさかゼロになるとは……。なのでこの際! とPCであっちこっ手直しを加えてしまいました。心のテーマは「ヘタレンディド」です。(OMAE) この遅刻ヒーローめ! という愛しさだけはこめました。愛が空回りしている!


 こんなものでよろしければ、ヘタレンディドに愛をこめて!



 ……もっとあいしあわせたかった……!!









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