人を殺してしまう男がいました。

「人を殺してしまいました」
 その町の警官は、軍服を返り血で濡らした男に険しい眼差しをよこします。男は今犯した罪を震えながら語りました。
「殺人を犯したと言うのか」
「はい。自分は覚えていないのですが、やってしまったんです」
「この町では殺人を犯したものは即死刑となっている」
 警官は拳銃を取り出して、男に発砲しました。男は警官を殺して町から逃げ出しました。







(数日後、別の町での話です)

「人を殺してしまいました」
 その町の兵士は軍服を返り血で濡らした男をみるなり、恐れるような悲しむような顔をしました。男は今犯した罪を震えながら語りました。
「一体、何がどうしたというんだい」
「それが、全く覚えていないんです。何がどうしたのかなんて自分が聞きたいくらいです。ああどこかで銃声が聞こえたのだけは覚えています。それ以外は本当に、本当に何も」
「見る限りあんた元軍人さんだろう。だから聞こえないはずの銃声が聞こえたんだ。恐ろしい目にあったみたいだな……かわいそうに。しかしこの町では殺人は決まって終身刑となっている。死ぬまで暗くて冷たい牢獄にあんたを閉じ込めなくてはならない」
 兵士は鉄の錠を取り出し男を捕らえようとしました。しかし男は兵士を殺して町から逃げ出しました。









(数日後、変な町での話です)

「人を殺してしまいました」
 背がいやに高い変な男は、軍服を返り血で濡らした男をただ、見ています。男は今犯した罪を震えながら語りますが、変な男はそれを気に留める様子はありませんでした。
「人を、殺してしまったんです」
「あっそう」
「え、あの、それだけですか?」
「気にすんなよ、僕もよくやるもん」
「よくやるって、一体」
「この町ではよくあることだよ。カドルスなんか毎日死んでるし。でも明日になったらみんな生きてるから気にしなくてもいいよ。嘘だと思うなら寝てごらんよ。なんにもなかったことになっているから」
 そんじゃ忙しいからこれで。どう見ても暇人の変な男は矛盾した挨拶で去って行きました。男はぽかんとしたまま去っていく変な男を見送りました。それから男はその町に住むことにしました。










あの町、その町、この町で。









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