※801です。
※グロとか血とかあります。



 もう立つことはしたくなかった。立てなければいいと思った。だけどまだこの身体はそこまで壊れてくれてないので、立つこと自体はまだ出来るのだ。だけど疲れて、疲れてしまってどうしたくもないので、フリッピーはずっと座り込んだままでいた。随分時間が立った気がしても、そのままでいた。
 思い出す。戦場の真ん中で、こうしていたことがあったなと。(銃声とか、爆音とか、悲鳴とか、奇声とか、火薬の臭いにまざる人のこげる臭いとか、敵さんがおれという獲物を見つけた時の笑い声とか、そいつを返り討ちにした時の感触とか!!)そんなものたちに慣れてしまってフ、とむなしくなって戦場の真ん中で今のようにこうしていた。誰か自分を殺してくれないかみたいな淡い期待をはらみつつ。(しかし結局おれは生きてしまってる。残念なことに)(皮肉な、ことに)

「何をしてるんだい、フリッピーくん」

 声は後ろからだった。だけど振り向きたくなかった。それ程までに、フリッピーは疲れ果てていた。だから顔は見ていないけれど声の主が誰かは分かっている。スプレンディドだ。
「そんなところに座り込んで。服が汚れてしまうよ」
 気遣うようなその言葉が、何だか凄く馬鹿らしいものに聞こえた。おいおいスプレンディド、君の目は節穴かい? 汚れてるもなにも、……よごれてるもなにも、

「……あ」フリッピーは自分の服を掴んで凝視する。

(おれの服は血をあびてどっろどろじゃないか)

 汗が肌をすべる。いくつもいくつも。ぼたぼたぼたぼた落ちる音がうるさい。首筋が冷えて肌寒い。頭がぼう、とする。(深呼吸深呼吸深呼吸しんこきゅう!!!)からからの喉で、深く呼吸しとあえぐのに、どうしてだろう。酸素に逃げられている!(苦しい!)早くしないと呼ぶ声が耳に入らなくなってしまうのに。

(ああ)

(駄目だ)






 フリッピーが次に目を覚ました時、空が真っ暗だった。夜のなったのだ、と分かった。服についた血はまだ乾ききっていない。服が肌にはりついて気持ち悪い。
「やあ、フリッピーくん。目が覚めたかね?」
 驚いた。てっきり殺したものだと思っていた、スプレンディドはなんと生きていた。驚いた後、数秒時をおいていつものように笑っている彼にフリッピーはぞっとする。スプレンディドは左腕でフリッピーの手を取った。
「そういえば君の大好きなチョコチップクッキーを焼いたんだよ。私の家で一緒にお茶でもしないか」
 彼は、左腕で取るしかなかったのだ。

「ヒーロー。腕」
「どうかしたかい? フリッピーくん」
「腕が、右腕が」
「ああ、大したことじゃないさ」

 私はヒーローだからね。大丈夫なんだよ。笑顔になって、そんな根拠のないことを言う。スプレンディドの右腕は本来あるべきところからなくなっていた。びちゃりびちゃり。歩くたびに水がはねた。フリッピーはあいている方の自分の手に目をやった。フリッピーがしっかりと握り締めていたそれは、恐らくスプレンディドの右腕だった。









(ほら今も、)


リタイアを叫んでいる。









 英雄は軍人が覚醒して何しても許していつものように接していればいいなあーなんて妄想してたのですがよーく考えてみたらこの英雄、こわい。






×××