※血あります。


 口をぱくぱく動かすこと。そのとき赤髪の針鼠にできたことといえばたったそれだけだった。手に持っていたキャンディが手からすべり落ちて足元で砂まみれになったけど、フレイキーはそれすらにも気付かずにいた。目の前の光景はそれほどまでに衝撃的だった。さっきまでみんなで楽しく遊園地で遊んでいたのに。とってもとっても楽しかったのに。赤黒い液体を全身に塗りたくった背中の主は誰だったっけ? 戦場から帰ってきても、迷彩柄の軍服を着たままの彼は、誰だった?
「あああああああああああ!! ああああああああああああ!!!」
 フレイキーは叫び声をあげた。気がついたらあげていたのだ。高笑いしていた退役軍人はフレイキーの声で目が覚めたような顔をして、真っ赤な自分の手と遊具の上の犠牲者を見比べる。
「……フレイキー、君は、いや、おれは、おれは……いったい」
 答えをさがすような目をその退役軍人はフレイキーにむけていた。震えた声だった。一部始終を目撃してしまったフレイキーはがたがたと震え、声を出すなんてとても無理だ。

(軍人さん、どうして)
 あんなにやさしかったのに。あんなに遊んでくれたのに。
「これは、違う、違うんだ。違うんだ。これは、これは」
 弁解するみたいに同じ言葉を口にしながら、フリッピーはゆるゆると首をふった。赤い両手をもてあまして彼はフレイキーの方へと歩み寄る。フレイキーは怖くてたまらないのと、やさしい彼の姿が思い出せないことに叫びだしたいくらい泣きたくなった。

 震えが止まらない足が、勝手に踵を返して逃げ出すために走り出す。追って来ているような気がしていた。目をぎらぎらと輝かせて牙をむいてみんなに襲い掛かったときみたいに、自分を殺すためだけに後ろから走って来ているような気が、していた。だからフレイキーは逃げた。死ぬ気というか殺される気というか、そんな気持ちでひたすら逃げて、逃げて、走って、走って、もうわけが分からなくなって、頭の中がごっちゃごちゃになって。しまいには石か何かにつまずいてころころりと面白いくらいにフレイキーは転がった。さかさまになった視界で後ろを見る。フリッピーはいなかった。彼が怖くて逃げたはずなのに、どうしてだかフレイキーはまた、泣きたい気持ちになった。

(僕は軍人さんが、だいすきだったのになあ)

 なんだか、さみしかった。








ぼくはあなたをおきざりに。








 軍人熊と怖がりの針鼠。この組み合わせが最近すきですきでたまらないのです。
 Double Whammyで覚醒フリッピーを見てフレイキーが悲鳴あげて、その声でフリッピーが正気になるところにもえましたみたいなお話です。っていうかあの話何気にフレイキーが生き残ってる……。

 フレイキーは女の子か男の子か分からないので女の子ということにしてもいいでしょうか。僕っこ! 僕っこ!






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