お友達のギグルスが風邪をひいたので、わたしは彼女のお見舞いにいくことにしました。今の時期、春はもう始まっています。日差しに空気がゆるやかに温められて、少しだけ眠たくなるような、そんないいお天気でした。わたしはギグルスに花を贈ろうと思いました。道に咲いていた綺麗な花を探してその花を摘みながら歩いていきます。そんなことをしていたからわたしは知らないうちに知らない道を歩いていて、迷子になってしまいました。

「こんばんは、ペチュニア」

 わたしは困り果てて泣きそうになっていると、後ろから声がしました。フリッピーという名前の軍人さんで、わたしの友達です。わたしは知っている人に会えたことで安心して涙があふれてきました。彼はわたしが泣きだすと大慌てしながら理由を尋ねます。わたしは自分が迷子になってしまったことを説明しました。フリッピーさんはやさしい顔になり、わたしの頭を撫でます。それじゃあ道案内をしてあげよう。と言って、ギグルスへ贈るための花を入れていた籠を持ってくれました。
 一緒に歩く彼はいつもよりとても雄弁でした。
「君を見ていると“赤ずきん”を思い出すよ」
「赤ずきんって、あの童話の?」
「ああそう。童話の赤ずきん。懐かしいなあ、童話なんて子供の時に読んでそれきりだったから。……君が赤ずきんだったらおれは狼だろうね」
「どうしてそう思うの?」
「おれはギグルスを食べてしまったからだよ」
 わたしは笑いました。彼も笑っていました。フリッピーさんはユーモアのある人ね、と言ったら彼は照れたように頬をかいています。
「でもわたしは、フリッピーさんは狼というより猟師さんだと思うわ。迷子になっていたわたしを助けてくれたもの」



 わたしたちがおしゃべりに夢中になっている間に、見慣れた道にたどり着いていました。わたしはフリッピーさんに頭を下げて、お礼を言いました。じゃあおれはこれで。フリッピーさんはやさしい笑顔のまま、踵を返します。わたしは何度も手を振りました。わたしに背中を向けていたフリッピーさんは、ふと顔だけをこちらに向けました。
 わたしは少しびっくりしました。振り向いたときのフリッピーさんはさっきまでとは全然違う表情をしていたのです。まるで、そう、それはまさに狼。赤ずきんに出てくる狼のようでした。ぎらりと光った獣の眼。彼はにやりと口の端を持ち上げて、あかんべえをするみたいに舌を出します。フリッピーさんの口から、輪っかのようななにかが落ちました。

「Good-bye!」

 彼はわたしの足元に何かを放り投げます。それは、手、榴、弾、で、し、た。



(「“こんばんは”、ペチュニア」)

(もしかしたら、彼は最初から)








ある昼下がりのお話。








 わかりにくいのですが、「昼下がり」なのに思い切りこんばんはとか言ってた軍人はおかしくなってる状態だったのにわたしはそれに気付きませんでしたとさ、みたいな話です。かくれんぼの話のペチュニアに手榴弾握らせて終わるシーンにちょっときゅんときたので勢いで書きました。






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